不動産 のページ
売買 任意売却 競売 賃貸 借地 借家 明渡 敷金
地代 家賃 建築 欠陥 境界 近隣紛争 など
 

Q&A抜粋

(不動産に関するトラブルについて)

(借家関係)

Q:賃貸アパートの大家ですが、アパートも古くなりましたし、アパートを取り壊して息子夫婦に家を建ててあげたいのですが、アパートの住人に退去してもらうにはどうすればよいでしょうか。家賃の滞納などはありません。
A:まず、普通の借家契約であるとします。そして、期限の定めがある場合期限の定めがない場合に分けて考えます。
@、期間の定めがある場合
イ、期間途中の場合
  合意で解除ができればよいですが、争いになってしまったら、借家契約で中途解約できる旨の特約をしてあり、かつ、後述の正当事由が認められなければ、明渡しを求めることは困難です。
ロ、期間満了の場合
  期間満了の1年前から6月前までの間に更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をすることが必要です。また、この更新拒絶通知には後述の正当事由が必要です。
 (この通知をしない場合、借家契約は従前と同一の条件で更新したことになってしまいます。ただし、その期間の定めのない契約になります。)
  期間満了後、借家人が建物の使用を継続するときは、さらに遅滞なく異議を述べる必要があります。
 (この異議を述べないと、借家契約は期間の定めのないものとして更新したことになってしまいます。)
 それでも、なお、借家人が居住を続ける場合には、期間満了による借家契約終了を理由とする明渡し請求訴訟を提起することになります。事案によっては調停申立も考えられます。
A、期間の定めがない場合(法定更新となった場合を含む)
  後述の正当事由がある場合、解約申し入れをすることができ、申し入れから6ヶ月後に借家契約は終了します。
  借家人が建物の使用を継続するときは、さらに遅滞なく異議を述べる必要があります。
 (この異議を述べないと、借家契約は期間の定めのないものとして更新したことになってしまいます。)
 それでも、なお、借家人が居住を続ける場合には、借家契約終了を理由とする明渡し請求訴訟を提起することになります。事案によっては調停申立も考えられます。



Q:借家契約の解約申し入れに必要な「正当事由」とはどういうものをいうのですか。
A:概略としては、@賃貸人が建物の使用を必要とする事情、A賃借人が建物を必要とする事情、B借家契約に関する従前の経緯、C建物の利用状況、D建物の現況、E賃貸人が行う立ち退き料などの財産上の給付の申し出を考慮して、判断されます。
 立ち退き料の金額は、具体的な正当事由を補完するためのものですので事例により様々になります。
 <一つの参考例>
●移転費用(引越費用、移転先取得に関する費用、たとえば30万円とします。)
●立ち退きで消滅する借家権の補償(たとえば、割合法で計算するとして、土地価格を1000万円、建物価格を300万円、借家権割合は土地については借地権価格(仮に土地価格の50%とします)の25%、建物については、仮に建物価格の40%とした場合、「1000万円×0.5×0.25=125万円、300万円×0.4=120万円」の合計額245万円が割合法による借家権価格。
●営業権ないし営業上の利益の保証(たとえば、月平均の営業純利益が30万円で、他に移転することにより3ヶ月間50%の減収が見込まれる場合、30万円×0.5×3=45万円)
★正当事由を補完すべき割合が30%程度とすると、具体的な立ち退き料の金額は、
  (30万円+245万円+45万円)×0.3=96万円。
 ただし、上記はあくまで一つの参考例であり、評価方法や事情により考慮すべく要素など様々あります。
 詳細はご相談下さい。


Q:ビルの一室を賃借して店舗営業しているのですが、老朽化による建替との理由で、立ち退きを求められました。立退料はどのように決まるものですか?
A:いわゆる立退料は、賃貸人の解約申入に必要な正当事由を補完するものです。上記「正当事由」Q&Aをご参考ください。当事者や物件の状況などにより様々であり、決まった計算式があるわけではありませんが、店舗の立ち退きとすれば、上記「正当事由Q&A」記載の参考例ほか、次の事情なども検討する場合もあります。詳細はご相談ください。
 @ビルの老朽化の程度(残存使用可能期間)
 A高度利用など、その他建替を必要とする事情の程度
 B賃貸人の経済状態などの属性
 C賃借人の経済状態などの属性
 D賃貸借契約の更新回数
 E賃料の額と推移、また、保証金の金額、
 F長期の賃貸借契約が予定されていたとみるべき事情の有無
 G賃借人が同店舗を必要とする程度
(同店舗におけるこれまでの営業努力、顧客の認知度や信用、営業内容と立地条件の関係、代替店舗確保の容易性と減益見込額など)
 H造作など投下資本の金額と時期
 I借家権価格
(たとえば、割合法の借家権価格では、一般的に建物の30〜50%+借地権価格の20〜30%)
 J代替店舗確保費用
 K移転実費
 L休業補償 など


Q:家主から一方的に家賃の値上げを通告されましたが納得できませんが応じなければいけないのでしょうか。
A:借地借家法では、@租税などの負担の増加、A土地や建物の価格の上昇その他経済事情の変動、B近隣の同種の建物の賃借に比べて不相当となったときに値上げできると定められています。具体的な事情によりますが、家主との話し合いがまとまらない場合には、まずは調停を申し立てることになります(調停前置主義)。また、家主が賃料を受け取らない場合は、法務局等の供託所に供託しておくべきです。


Q:賃貸アパートから引っ越すにあたり、クリーニング代の負担を求められるなどして、敷金を返してもらえませんでした。クリーニング代は大家が負担するものではないのですか。
 また、契約書に賃借人負担と書いてある場合は、賃借人が負担することになるのですか。

A:通常使用に伴う汚損・損耗は家賃に組み込まれるべきものであり、退去時に賃借人に負担させることは原則としてできません。また、契約書で賃借人が負担すると定めていても、賃借人の負担が明確に特定できる例外を除き、退去時に賃借人にその負担を請求できません。この点について、判断をした京都地方裁判所平成16年3月16日判決は、概ね次のとおり判示しています。
 
「賃借人は、契約時に明け渡し時に負担しなければならない自然損耗等による原状回復費用を予想することは困難である一方、賃貸人はこれを予想して賃料に組み込んだり、賃貸期間に応じて定額の原状回復費用を定めることは可能であることから、退去時に通常使用に伴う汚損、損耗による原状回復費用を賃借人に一方的に負担させる特約は賃借人の利益を一方的に害するものであり、かかる特約は消費者契約法10条に違反し無効となる。」

Q:私の賃借している自宅アパートが競売となり所有者がかわりました。私は抵当権設定登記より後に居住を始めたことから退去をしなければならないと言われています。退去しなければなりませんか?
A:平成16年4月1日より前から賃借している場合、借家期間が3年以下であるときは、短期賃貸借制度の保護があり、期間満了まで居住することができますし、明け渡し時には新所有者に敷金の返還請求をすることができます。また、期間の定めがないときも、正当事由ある解約申し入れのあるときまで居住することができます。但し、この場合の正当事由は相当緩和されて判断されます。
 平成16年4月1日以降に賃借した場合は退去しなければなりませんが、6ヶ月間の明け渡し猶予期間があります。但し、1ヶ月分以上家賃を滞納すると明け渡し猶予期間がなくなります。また、この場合、新所有者に敷金の返還を求めることはできませんので、旧所有者に敷金の返還を求める必要があります。
 なお、競売ではなく任意売買であった場合、従前の賃貸借契約が新所有者との間で継続するのが原則であり、退去の必要はありません。

(借地関係)
Q:借地を転貸しようと思うのですが、地主が承諾してくれません。どうしたらよいでしょうか。
A:当事者間で協議をしても話がまとまらないときには、裁判所に土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可申立をして、地主の承諾にかわる裁判所の許可を得ること手続があります(借地非訟手続)。
 借地非訟手続としては、@借地条件の変更、A増改築の許可、B借地契約更新後の建物再築の許可、C土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可、D建物競売などの場合における土地の賃借権の譲渡の許可、E、C及びDの申立があった場合における借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立があります(借地借家法17条以下)。

Q:その他、不動産トラブル関係後日追加予定。


不動産賃貸借契約における特約の効力

第1 借地に関する特約の効力
 1 使用目的,用途等に関する特約
(1) 序論
 土地の賃貸借契約に際しては,通常,土地の使用目的のほか,借地上に築造する建物の種類,構造,規模,用途等の借地条件を定めるが,これは土地賃貸借契約の基本的な内容そのものであって,当事者が自由に定めることができる。

 しかし,使用目的が建物の所有にあるとされれば,借地借家法により借主は強く保護される。また,借地条件に関しても,これに違反したからといって直ちに契約解除が認められるわけではない。

以下,特約と事案に即して検討する。

(2) 土地をゴルフ練習場として使用するとの特約があった場合

ア 問題点
  借主が,「ゴルフ練習場には,その経営上,事務所用の建物が必要なのだから,借地法(借地借家法)の適用がある。」と言ってきた場合,実際に借地法(借地借家法)の適用があるのか。
イ 結論
  ゴルフ練習場として使用する目的で土地の賃貸借がされた場合には,たとえ当初からその土地上にゴルフ練習場の経営に必要な事務所用等の建物を築造,所有することが予定されていたとしても,特段の事情がない限り,その土地の賃貸借は,借地法1条(借地借家法1条)にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」賃貸借ということはできない(最判昭和42年12月5日)。
(3) 土地上に建築する建物を,主として貯炭場を設けるための小規模の木造建物に限るとの特約があった場合
ア 問題点
  借主が,消防署の命により堅固な石油貯蔵庫を建築したことが,賃貸物の用法違反となるか。
イ 結論
  借地の用法を主として貯炭場を設けるためと定め,建物の建築として木造の小規模のものに限るとの特約のもとでなされた土地賃貸借契約において,賃借人が賃貸人の事前の明白な拒否にもかかわらず,借地上に石油類販売用のコンクリートブロック造の堅固な石油貯蔵庫を建築することは,賃借物の用法違反をきたすものというべく,当該石油貯蔵庫の建築が消防署の命によって従前の木造をコンクリートブロック造に改めたという事情によるものであっても,右事情は用法違反の違法性を阻却する事由とはならない(最判昭和39年6月19日)。
2 一時使用の特約
 (1) 序論
 借地法や借地借家法上,建物所有目的の借地権の期間については,基本的に長期とされる。
 もっとも,「臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合」には,借地法2条もしくは借地借家法3条の規定は適用無く,短期間の期間の定めも有効となる。
 このうち,「臨時設備」とあるのは,建設工事現場の飯場,住宅展示場,一時的興行施設など,建物所有により意図される目的が一時的なるもので,その目的が終了すれば建物を所有する理由も無くなるものとされている。他方,「その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合」に関しては,賃貸借に至った動機,経緯,契約内容,契約条項などの当事者の意思を推測できる事情及び土地の状況,建物の所有目的(用途等),規模,構造など借地借家法適用の是非が判断できる客観的事情を総合的に判断するほかない(最判昭和43年3月28日)。
 なお,借地借家法制定以降は,事業用借地権(同法23条2項)や事業用定期借地権(同条1項),定期借地権(同法22条),建物譲渡特約付借地権(同法24条)などを設定すればある程度の融通がきく。それでもなおこのような定期借地権等の手続をとらずに設定された借地権で一時使用の借地権と判断せざるを得ないものもあり,一時借地権か否かの判定は,今日においてもなお重要であることはいうまでもない。
(2) 賃貸期間を区画整理事業実施の時までとする特約があった場合
ア 問題点
このような特約がある場合,一時使用の賃貸借と認められるか。
イ 結論
土地所有者が,その土地の一部を建物所有の目的で賃貸し,賃借人がこれに店舗を建築した後残りの部分に居宅を建築することを黙認していた場合に,契約の当初,上記土地が特別都市計画法による区画整理区域内にありその一部が道路敷となることに決定していたため,賃貸人は,上記区画整理実施の時まで一時賃貸する意思で契約し,残りの部分についても最初の賃貸部分と同時に返還を受ける意思で使用を黙認し,賃借人も賃貸人の上記意思を知りかつこれを承認していたものであって,そのため契約書にも,期間を1年,賃料を1日50銭と記載した外,「臨時借受」の文字を使用した事情にあるときは,たとえ上記建物が良好な資材を用いた本建築で,賃貸人がその建築を承認したうえ落成に際し,祝品を贈り,かつ自ら上記店舗を借り受け1年余にわたり使用していたなどの事情があっても,上記借地権は,期間を区画整理実施の時までとする一時使用のためのものと認めるのが相当(最判昭和32年2月7日)。
(3) 裁判上の和解で,期間10年余と定めて賃貸借契約をし,期間満了と同時に建物を収去して土地を明け渡す旨の特約があった場合
ア 問題点
このような特約があった場合,一時使用賃貸借に該当するか。
イ 結論
 裁判上の和解により成立した土地賃貸借についても,土地の利用目的,地上建物の種類,設備,構造,賃貸期間等諸般の事情から,賃貸借当事者間に短期間に限り賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる場合には,上記賃貸借は,借地法9条にいう一時使用賃貸借に該当し,同法11条の適用を受けないと解すべきである(最判昭和43年3月28日)。
(4) 土地の不法占拠者との紛争解決のために賃貸借契約をし,10年後に必ず返すとの特約があった場合
ア 問題点

このような特約があった場合,一時使用賃貸借に該当するか。
イ 結論
 土地所有者が仮設建築物を所有して土地を不法占有する者を相手方として土地明渡の調停を申し立てたところ,その建物の居住者が利害関係人として期日に出頭し,なお居住者が多数あることが判明したので,事態の解決を計るため,調停外において上記居住者中の有力者1名と期間を10年とする土地賃貸借契約を結び,10年後には必ず返地することを確約したときは,たとい契約に際し権利金を授受し,その後賃料を増額したことがあっても,借地法9条にいう一時使用のため借地権を設定したこと明らかな場合に該当する(最判昭和36年7月6日)。
(5) 借地期間は地主の長男が医業を開始するまでとの特約があった場合
ア 問題点
  このような特約があった場合,一時使用賃貸借に該当するか。
イ 結論
 地主の長男が医学修行中であり,卒業後その土地で医業を開始することを予定していたので,借地期間を上記医業開始確定の時までとするため,契約にあたり,地上に建築せらるべき建物を戦災復旧用建坪15坪のバラック住宅と限定し,とくに一時使用を条件とする旨契約書に明記されていた場合には,たとえ上記開業時期が明確に定まっていなかったため,一応期間を3年とし,その後も,開業に至らずして期間を更新し,またその間に借地権譲渡,地代増額等の事情があっても,一時使用のための借地権というを妨げない(最判昭和37年2月6日)。

3 賃料改定に関する特約
(1) 序論
 賃料は本来当事者間の合意で自由に定められるべきものであるから,賃料改定に関する特約も基本的にはその有効性が認められるべきで,判例・学説もその有効性を承認している。
 他方,借地借家法11条1項(借地法12条)は,賃料が不相当となったときは,「契約の条件にかかわらず」賃料を増減請求することができる旨規定されていることから,実質的に強行法規としての性格を有するものと解されていることもあり,賃料改定に関する合意の効力が問題となる。
 賃料改定に関する特約であるが,一定の期間,賃料を増額しない旨の特約が有効であることは上記条項の認めるところである。その他の特約,例えば,一定の期間経過毎に自動的に一定割合が増額される特約(賃料自動増額特約),賃料は一定期間経過毎に見直され,予め合意された経済指数等にスライドして改定額を決定する旨の特約(賃料スライド条項特約),賃料は将来とも減額しない旨の特約(賃料不減額特約),賃料は一定期間経過毎に当事者協議して定める旨の特約(賃料協議条項)などは,それぞれ,当該賃貸借の種類,契約の経緯,その他の契約条件(例えば権利金の授受の有無等)により,それとの関係でこれらの特約が定まるものである。
 したがって,各特約の効力については,その賃貸借契約及びその他諸般の事情により判断するほかないが,この場合,上記条項の強行法規制を前面に出せば,かかる特約が存在する場合であっても,当事者には賃料増減請求の機会を与え,その上で具体的な賃料額の決定にあたっては,特約が定められるに至った事情等を考慮して,賃料増減請求の当否(同請求権行使の要件充足性)を考慮すれば足りるとするのが,判例の傾向である。
(2) 将来の賃料は賃貸借の当事者が協議して定める旨の特約があった場合
ア 問題点

 かかる特約があったにもかかわらず,協議を経ないでなされた賃料増額請求の意思表示は無効となるか。
イ 結論
 建物所有を目的とする土地の賃貸借契約において将来の賃料は当事者が協議して定める旨の約束がされた場合でも,当事者が賃料増減の意思表示前に予め協議を経ず,また,意思表示後の協議が当事者相互の事情により進まないため更にその協議を尽くさなかったからといって,賃料増減の意思表示が無効となるものではない(最判昭和56年4月20日)。
(3) 土地の賃貸借において,期間を35年と定め,賃料はこの間3年毎に見直し,1回目は15%,2回目以降は各10%増額する旨の特約があった場合
ア 問題点
 かかる地代自動改定特約がある場合に,賃料減額請求権の行使は認められるか。
イ 結論

 地代等自動改定特約において,地代等の改定基準を定めるにあたって基礎とされていた事情が失われることにより,同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には,同特約に拘束されず,同項に基づく地代等減額請求権の行使を妨げられない(最判平成15年6月12日)。

(4) 土地の賃貸借において,3年毎に消費者物価指数の変動率等により賃料を改定するが,同変動率が下降しても賃料は減額しない旨の特約があった場合

ア 問題点 かかる特約は有効か。
イ 結論
 建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約において,3年毎に賃料の改定を行うものとし,改定後の賃料は,従前の賃料に消費者物価指数の変動率を乗じ,公租公課の増減額を加算または控除した額とするが,消費者物価指数が下降してもそれに応じて賃料の減額をすることはない旨の特約が存する場合であっても,上記契約の当事者は,そのことにより借地借家法11条1項に基づく賃料減額請求権の行使を妨げられるものではない(最判平成16年6月29日)。

4 増改築禁止特約
(1) 序論

 土地の賃貸借契約において,「増改築をしてはならない。」「賃貸人の承諾なく増改築してはならない。」など,建物の増改築を制限する旨の特約が付されることが少なくない。
 増改築禁止特約が有効であれば,建物買取請求権が行使された場合における建物代金の高騰を防ぐ,借地期間満了時の正当事由の一つとして建物の老廃度が考慮される,などの点で賃貸人にとっては有利である。
 他方,借地人としては,借地契約の目的の範囲内で最有効の土地利用が図れなくなる点で不利となる。そうとすれば,借地人保護という借地(借家)法の趣旨から,増改築禁止特約は借地人に不利な規定として無効となるのではないかという問題が生じる。    この点,無効とする学説も存在するが,通説及び判例は,増改築禁止特約は借地法,借地借家法の強行法規に反せず有効と解している。ただし,増改築禁止特約に違反した行為のすべてに解除権の行使ができるわけではなく,その増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり,土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため,賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは,賃貸人は上記特約に基づき解除権を行使することは許されないとするのが確定した判例である。
 ところで,増改築制限特約がある場合に,地主が増改築を承諾しないときは,借地人は裁判所に対して承諾に代わる許可の裁判を申立てることができる。この許可の裁判を申し立てることなく増改築してしまった場合にも,直ちに解除権が行使されるということはなく,許可の申立てをすることなく増改築したことが,上記信頼関係を破壊するおそれがあるか否かの判断の一要素として考慮されるにすぎない。
(2) 土地の賃貸借において,賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築したときは,催告なしに契約を解除することができる旨の特約があった場合
ア 問題点  かかる特約に基づきなした賃貸人による無催告解除は有効か。     イ 結論
@ 建物所有を目的とする土地の賃貸借中に,賃借人が賃貸人の承諾を得ないで借地内の建物の増改築をするときは,賃貸人は催告を要しないで賃貸借を解除することができる旨の特約があるにもかかわらず,賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合において,増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり,土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため,賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは,賃貸人は,前記特約に基づき,解除権を行使することは許されないものというべきである。
A 前期の特約がある場合において,借地人がその居住用建物の一部の根太などを取り換え,2階部分を拡張してアパート用居室として他人に賃貸するように改造したが住宅用普通建物として前後同一であるなど判示事実のもとでは,賃貸人が上記特約に基づいてした解除権の行使は,その効力を生じないと認めるのが相当である(最判昭和41年4月21日)。
(3) 土地上の建物を工場,倉庫のみに使用しそれ以外には使用しないこと及び上記使用目的変更のために増改築しないこと,賃借人がこれに違背したときは賃貸人は契約を解除できる旨の特約があった場合

ア 問題点
 かかる特約の下,賃借人が工場用建物に間仕切りを作り,中2階を2階に改造して店舗兼居宅及び貸間に増改築した場合,契約解除は認められるか。

イ 結論

 借地契約に解除権留保付増改築禁止の特約がある場合において,借地人が地上の工場用建物に間仕切りを作り,中2階の柱に継ぎ柱をして2階建てとし,店舗兼居宅及び貸間として他人に賃貸するように改造したが,上記増改築は,その態様において建物所有を目的とする借地人の土地の通常の利用上相当というべきであり,賃貸人に著しい影響を及ぼすものではなく,また借地人の一家の経済的苦境を脱するためにされたものであるなど判示事実のもとでは,賃貸人が上記特約に基づいてした解除権の行使は,信義則上許されない(最判昭和51年6月3日)。
(4) 賃借人がその所有建物を改築又は増築するときは,賃貸人の承諾を受けなければならない旨の特約があった場合
ア 問題点かかる特約の下,賃借人が旧建物の1階を約1.4倍,2階を3倍に拡張して仮設建物を増築し,会社の従業員の居宅等にした場合,契約解除は認められるか。
イ 結論

 借地上の建物に対し無断増築禁止の特約に違反して増築がなされた場合であっても,賃貸人が改築については予め承諾していたこと,賃借人が上記建物拡張の必要に迫られていたこと,増築部分が除却の容易な仮設的建物であり,耐用年数も短いこと等判示の事情の存するときは,上記増築をもって賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないものであり,解除は認められない(東京高判昭和52年2月24日)。
(5) 建物を大修善するときは賃貸人の書面による承諾を要し,これに違反した場合には賃借権を放棄したものとみなす旨の調停条項があった場合
ア 問題点
 かかる調停条項がある場合において,火災により建物が焼失した後,焼け残りの材料で建物を築造した場合,契約解除は認められるか。

イ 結論
 借地契約における大修善禁止特約に違反し,火災により焼け残った柱,壁等を利用して平屋建物を築造したとしても,当事者間の信頼関係を破壊するに足りるものとは認められず,解除は認められない(名古屋高判昭和54年6月27日)。
6) 増改築禁止特約はあるが,土地賃借人が行う土地上の建物の屋根・玄関扉部分等の補修工事及び羽目板取替工事を土地賃貸人が妨害しない旨の裁判上の和解が成立していた場合
ア 問題点
 かかる特約及び和解の下,賃借人は建築業者に工事を頼んだところ,上記業者から土台・柱・屋根下地板・屋根瓦が弱っていることを理由にその取替をすすめられて,その取替えをも含む上記工事を実施した場合,契約の解除は認められるか。
イ 結論
 増改築禁止特約がある土地の賃貸借において,借地上の建物の補修工事に関し成立した和解条項の範囲をこえてなされた補修工事は建物の改築にあたるが,上記改築工事は借地人の土地の通常の利用上相当の範囲にあたり,かつ建物の耐用年数を延ばすとはいえ,工事の程度に照らし,賃貸人に及ぼす影響が著しいとまでは断定できなず,解除は認められない(東京高判昭和54年7月11日)。
(7) 賃借人は賃貸人の同意を得ないで建物の増改築をしないこと,上記約定に違反したときは通知催告なしに土地賃貸借は当然解除となる旨の裁判上の和解が成立していた場合
ア 問題点
 かかる和解が成立した後,建物の朽廃等を理由に賃貸人から賃借人に対して建物収去土地明渡訴訟が提起された。その訴訟継続中,裁判所の検証,鑑定の証拠調べの矢先に,賃借人が建物の主要構造部分の改修をした場合,契約の解除は認められるか。イ 結論
 建物収去土地明渡訴訟が係属し,その検証,鑑定等の証拠調べが近く行われることが予測される段階において,借地人が増改築禁止特約に違反して改築工事をしたときは,土地賃貸借について賃貸人,賃借人間の信頼関係を破壊するおそれがないとは到底いえず,解除は認められる(東京高判昭和54年7月30日)。

(8) 増改築または大修善をするときは賃貸人の書面による承諾を得ることとし,これに違反したときは無催告で賃貸借契約を解除することができる旨の特約があった場合
ア 問題点
 かかる特約の下,賃借人が建物の老朽化に伴う改修と他に賃貸するための改修工事を行った場合に,賃貸人が,賃借人の過去の増改築等の違反をも併せて理由にして契約の解除をすることが認められるか。
イ 結論
 増改築許可の裁判を申し立てることができるようになった後であっても,増改築を制限する特約に違反して賃貸人の承諾を得ずになされた増改築がすべて解除原因となると解すべきではなく,上記条項による許可制度の存在を考慮したうえで,なおかつ増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり,土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため,賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは,解除権を行使することは許されないと解すべきである(東京高判昭和59年4月26日)。