交通事故 のページ
Q&A抜粋
(交通事故について)
Q:交通事故に遭い、入通院をしました。保険会社からは示談金の提示があったのですが、適切な金額であるかどうかよく分かりません。
A:保険会社から提示される損害賠償額は、一般的に保険会社の自社基準によることが多く、判例などで認められる金額よりも低額なことが多い。
さらに、個別事情を反映せず、支払額が抑えられてしまうこともあるようです。交通事故の時に、考慮すべき損害賠償額の費目には、次のようなものがあります。
(積極損害)
治療費
付添看護費
入院雑費等
入通院交通費
葬祭費
家屋・自動車などの改造費
装具など
学習進度の遅れを取り戻すための授業料など
子供の保育料など
弁護士費用
調査費用など
(消極損害)
休業損害
後遺障害による逸失利益
死亡による逸失利益
入通院慰謝料
死亡慰謝料
後遺症慰謝料
(物損)
修理費相当額
(評価損)
また、争いとなることが多い点として、過失割合、後遺障害等級などがあります。
なお、特約部分の不払についても注意が必要です
弁護士松本卓也のページ
交通事故の損害賠償請求について
弁護士松本卓也は、損害保険会社とは顧問契約はしておりません。
しかし、ほぼいつも、交通事故の被害者の損害賠償請求の案件を受任しています。
一番、よくあるご相談は、
「損保会社からの賠償額の提示は妥当な金額ですか?」
というご相談です。
交通事故の損害賠償実務では、大きく、自賠責保険の基準と、任意保険会社の社内基準と、いわゆる裁判基準(青本基準など)の3つがあります。この3つの基準で混乱しておられるご相談者がよくいらっしゃいます。
相手方の任意保険会社から提示される損害賠償金額は、自賠責よりも高く、裁判基準(青本基準)よりも低い金額であることがほとんどです。弁護士に委任すると、示談であっても裁判基準で解決することが多く、損害保険会社の提示額よりも高くなることが多いと思われます。
しかし、弁護士保険特約が使える場合はともかく、弁護士に依頼すると、弁護士費用がかかりますので、事案ごとに弁護士を頼むべきかどうか検討する必要があります。また、コストの問題だけではなく、訴訟まで考えるのであれば、時間と労力を必要としますし、示談の際には争点とならなかった新たな争点が出ることもあり、思わぬ結果を招くことがないわけではありません。あくまで、事案ごとにご相談者のご事情に応じて、検討することが必要です。
さらに、難しい案件ほど、依頼者と弁護士の信頼関係と協力関係が必要になります。交通事故の損害賠償実務には、確かに、定型化されているところもありますが、逆にいえば、非定型的な事案では、適切な賠償を得るためには非常な困難を伴うことがあります。このような事案では、依頼者との信頼関係と協力関係が大切になると考えています。次に、事案の概要をご紹介する案件などは、依頼者と弁護士の信頼関係と協力関係が事案解決にとても重要でした。なお、次に事案の概要をご紹介する案件は、依頼者の方からホームページで紹介していただきたいとのご申出をいただいたものです。
「交通事故にてCRPSに罹患したが、自賠責では後遺障害等級非該当となり、その後、複数回、後遺障害等級異議申立を経ても、自賠責の後遺障害等級は非該当のままであったが、裁判所にて、後遺障害等級7級相当として、将来介護費,将来手術費などの費目を含めた,裁判上の和解が成立した事案」
本件は、交通事故発生から裁判上の和解成立まで約7年かかった事案です。依頼者は、交通事故受傷後、耐えがたい疼痛に悩まされますが、原因が判明しませんでした。複数の医療機関にもかかりましたが、打撲程度の診断のままで、CRPS(RSD)の疑いという話は出たものの診断には至らず、原因がはっきりしないまま心因性を疑われるなどしました。そして、疼痛を抑えるため、非常に多数回の神経ブロック注射も打ちました。しかし、加害者側保険会社は、疼痛自体の存在や事故との因果関係を疑い、事故後約6ヶ月後に疼痛が残存したまま、症状固定との診断書が出ました。そして、依頼者は、自賠責の後遺障害事前認定申請を行いました。
しかし、自賠責の後遺障害等級事前認定申請の結果は非該当というものでした。この時点では、主治医すら、CRPSとの診断書を作成しないなど医療機関の協力が十分に得られておらず、また、依頼者の個別事情もあり必要な検査も十分に受けられておらず、根拠となる医療記録に不足する状況でもありました。
一方、依頼者の右上肢等の疼痛は治まることはなく、右上肢が使えない状況になっていました。そこで、弁護士が正式に委任を受けて、自賠責の非該当という後遺障害等級事前認定に対する異議申立をすることになりました。
ところが、依頼者の個別事情もあり、必要な検査をすすめるのに時間がかかりました。ここで、すでに解決までに相当な時間がかかることが予想されたため、まず、依頼者が損害賠償請求を継続していくための生活の基盤を如何に作るかが問題となりました。そこで、CRPS症状を根拠とする身体障害認定を受けたほか、依頼者が長期間に亘る損害賠償請求交渉ないし訴訟を続けられる生活基盤作りをしました。
そして、依頼者は異議申立の準備のため、医療機関を転々としたのですが、医師によっては診断前からCRPSではないとの予断を持っていたのではないかと疑われるような対応をとられたこともありました。しかし、依頼者と弁護士は、粘り強く異議申立に必要な医学的資料を揃えるための協議をして必要な検査を検討しました。依頼者は、医師との面談を繰り返したほか、症状を説明(立証)するため写真その他の記録をとり続けました。弁護士は、相手方保険会社の弁護士に異議申立の準備状況の説明とその費用負担の協議や時効中断承認申請などをしました。
依頼者は、従前の主治医からの紹介などで医療機関を回ったほかにも、CRPSの適切な治療を受けることができる医療機関を探しました。そして、依頼者はCRPSを専門とする医師と出会い、ようやく明確に医学的根拠を記載して病名をCRPSとする診断書を取得することができました。また、異議申立に必要な検査もできました。弁護士も医師と面談をして異議申立の内容や根拠も確認しました。
そして、非該当とした自賠責の後遺障害等級事前認定に対する異議申立をしました。
依頼者は、疼痛を抑えるために体に電極を埋め込む手術もして異議申立の結果を待ちました。その後、1年近く待って出た異議申立の結果は再び非該当というものでした。
しかし、その根拠とするところは、診断書を作成した医師の見解と全く異なるものであり、非該当との判断にはやはり誤解があるとみられたことから、直ちに、追加資料を添付して、再度の異議申立をしました。
さらに、示談交渉での解決に限界を感じたため、訴訟提起をして、訴訟と再度の異議申立を併行して行いました。交通事故から訴訟提起に至るまでの間の依頼者に関する医療記録ほぼすべてを取り寄せて、訴訟と異議申立の証拠資料とし、相互の医療記録の関連性とその評価について証拠説明書などで理解できるようにもしました。
ところが、訴訟でも、当初、裁判官の理解はなかなか得られなかったようでした。そこで、事故状況と事故後の経緯、症状悪化とその後の訴訟提起に至るまでの経緯、依頼者の症状を丁寧に説明していきました。これらの資料は、医療記録のほか、依頼者がこれまでに至る生活状況を記録してきた証拠でした。
異議申立では、再検査をして医学的資料を追加提出するよう要請がありました。訴訟でも、自賠責の後遺障害等級認定が出ている方が訴訟進行しやすいということもあり、異議申立手続への再検査資料の提出をすすめました。併行して、訴訟手続においても、医師の協力を得て医学的文献の提出、その医学的文献と依頼者の医療記録が合致しておりCRPSが根拠づけられていること、また、過去の医療記録の記載に誤解が含まれていることの説明を丹念にしました。医師は、大変多忙であり、弁護士とのコミュニケーションをとることがなかなか難しいところ、依頼者自身がCRPSについて自ら熱心に勉強をして資料収集に努めて、医師とのコミュニケーションを十分にとり、医師の見解を弁護士に伝えることをしてくれたことが本件での特殊性でした。その結果、裁判官の心証は当初とはずいぶん変わったように見受けられました。
ところが、再度の異議申立の結果も非該当でした。しかし、その理由を見ると、引用している医学的資料すら間違っているというものであり、直ちに再再度の異議申立をしました。
交通事故の後遺障害等級認定は、労災保険の認定基準に準拠することになっています。このころには、本件では、労災における後遺障害等級認定は9級認定を経て、労災への異議申立後、労災では7級の認定がなされていました。この労災の手続は、これまで作成収集した資料をふまえて、弁護士と協議をして、依頼者が行ったものでした。
労災では審査にあたる医師が直接依頼者と面談しているのに対し、自賠責の後遺障害等級認定では異議申立でも医師の面談はありませんでした。しかし、それでも、自賠責の手続では、労災で後遺障害等級認定が出ているにも関わらず、非該当の回答を繰り返すばかりでした。
そこで、裁判所には、自賠責の後遺障害等級認定を待つことはなく、裁判官が適切な後遺障害等級(労働能力喪失率)を認定すべく訴訟手続を進めてもらいたいとの意見を出して、依頼者の現状の生活状況を撮影したDVDも提出したところ、裁判官から、相手方が提出した医学的意見書もふまえたうえで、裁判所として後遺障害等級7級を前提とする和解案を提示するとの話がなされました。その直後、自賠責手続では、再再度の異議申立についても非該当とする回答が届きました。
しかし、裁判所は、そのまま後遺障害等級7級を前提とする和解案を提示しました。そのうえで詳細の協議手続を経た上で、和解を成立させることができました。
(補足)
本件についての概要は以上のとおりです。長期に亘る事案でしたし、詳細に触れるわけにもいきませんので、不正確なところもあるかもしれません。ただ、相談の段階から考えると約7年間に亘りましたが、CRPSという難しい案件で本件を受任して解決までたどり着けたのは、依頼者が、「弁護士と一緒に」、というより、むしろ、「自分でできないところを助力して欲しい」、というお考えで、事件解決のため努力を依頼者も惜しまなかったからであると思っています。難しい案件であればあるほど、依頼者との信頼関係が大切になってくると思います。
弁護士だけでできることには残念ながら様々な限界があると思います。難しい案件であればあるほど、依頼者と弁護士が協力して役割分担をして事件を解決していこうとしなければ、解決に結びつかない事案もあると思います。弁護士松本卓也は、CRPSの専門家ではありません。今後、CRPSの案件でのご依頼があっても受任するとは限らないと思います。ただ、本件は、当事務所のモットーである「依頼者との信頼関係が築ければトラブルの解決方法が分かる」ということを思い返させてくれる事案でした。そこで、依頼者からホームページに載せてもらいたいとのご申し出もいただいたことからご紹介させていただきました。依頼者、医師その他ご協力いただきました方々に感謝申し上げます。